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2013年2月 Archive

五輪開催の意義

2020年以降のオリンピックからレスリングがなくなるかもしれない。
国際オリンピック委員会(IOC)の理事会は五輪の「中核競技」から
レスリングを除外した。残った1枠を野球、ソフトボールなど7競技と
争うことになったというから、状況は厳しい。

五輪種目の入れ替えは、そう珍しいことではない。時代とともに
変化していくことは当然だが、紀元前から続く「人類最古のスポーツ」を
外す理由がよく分からない。IOCによると、世界的な普及度や
テレビ放送、スポンサー収入などを分析した結果という。
国際レスリング連盟の組織改革の遅れも指摘されているが、
あまりのも唐突すぎると思う。

五輪3連覇の吉田沙保里選手は「信じられない。悔しい」と
コメントしているが、当然だろう。五輪を目指す選手や子どもたちの
ショックは大きいと思う。「近代オリンピックの父」クーベルタンは
五輪開催の意義を、こう提唱している。「フェアプレーの精神をもって
理解しあうことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」と。

五輪の商業化がいわれて久しい。だから、テレビ映りがよく、
スポンサー収入も集めやすい競技を増すというのは安易すぎる。
変化を急ぐあまり、理念を忘れるようでは本末転倒だ。IOCは、
そのことを理解してもらいたい。

人生の密度

黒いネクタイを締めるたびに、限りある人生を考えさせられる。
過日、友人の葬儀が営まれた。突然の死はいまだに信じられない。
いつも励まされ、何もお返しできなかったと悔やんでいる。
人生八十年と言われて久しいが、どこかで他人事と受け止めている。

欧米型の食生活にどっぷりつかり、車での移動に頼り切る彼には
高いハードルだったと映るからだ。やはり粗食に耐え、体を
動かしてきた先輩たちにはかなわない。永遠の別れを重ねて
深まっていく、人生のはかなさへの思いだ。ある食品工業の社長は
「百年カレンダーを」を使って社員に「はかなさ」を説いて
いられるそうだ。百年分の暦が並んだ大きな紙を前に「一枚の紙に
君も、私の命日も入る。われわれは一枚の紙に住んでいる仲間だ」
と語り掛ける。若い社員でもあっても、どこかに見えない命日が
潜んでいる。

そんな気付きは、一度限りのはかない人生だからこそ
どう生きるかにつながる。その上で「忘己利他」(もうこりた)の
大切さを説く。自分さえよければでなく、他人のために何かをする。
小さな実践でいい。その積み重ねが自分の幸せになっていくのだと。
 
友人の遺影を見つめ、日々の仕事に精いっぱい打ち込んだ姿が
浮かんできた。人生は長さでなく密度が大切。いつもの人懐こい
笑顔で論された気がした。
 

巨大隕石

すざましい閃光(せんこう)だった。動画サイトを見て身震いした。
隕石(いんせき)が人類を襲う、映画の世界がロシアで現実になった。
願い事を託せる流れ星なら歓迎するが、宇宙からの贈り物
にしては物騒すぎる。

地球には幾千もの隕石が落下する。大半は人目に触れない場所に
落ちるらしい。大規模なものは、1908年にシベリア上空で大爆発した
隕石か彗星(すいせい)と見られる落下物が知られる。
今回はそれ以来の大きさだそうだ。広島型原爆20個分のエネルギーが
衝撃波として放出されたという。建物の損壊が激しく、負傷者は
1200人余に上る。死者の情報がないのは幸いだった。

古人にとって宇宙は神の領域だったらしい。隕石を天上からの
授かり物と考えていたのだろうか。霊験を信じ寺社にまつり、
碑を建てた。最古の記録は861年に落下した直方(のうがた)隕石
(福岡)だそうだ。国内最大の隕石は1850年の気仙隕石(岩手)で
135キロあったという。『歴史を揺るがした星星』恒星社厚生閣)参照

人類は長く宇宙に飛び出す術(すべ)を知らなかった。
月に降り立ち半世紀足らずだ。宇宙科学は急速に進歩しているが、
なお未知の闇が広がる。昨日は直径45メートルの小惑星が
地球に最接近した。大型の小惑星や隕石は事前に軌道を把握できる。
だが小さな落下物は予測できず対処が難しいという。
歯がゆいばかりだ。

深遠なる宇宙の前に、いかに人間はちっぽけで非力な生命体であるか、
思い知らされる。被害者は気の毒だが、古人なら紛争や諍(いさか)い
の事の絶えない地球への警告、と受け止めるか。

 

師弟関係

柔道女子トップ選手への暴力問題をきっかけに、
日本のスポーツ界で「選手と指導者の在り方」が問い直されている。
重いテーマだなと思っていた折、「いい話」が聞こえてきた。
競泳男子平泳ぎの北島康介選手が、かって師事した平井伯昌
コーチの下で練習し現役を続行するという。「水泳人生を
締めくくるには、もう一度平井先生に指導してもらいた」。
弟子からうれしい声のプレゼントが届けられた。

平井コーチの教えを請うため海外からも有力選手が来る。
選手は技術の取得に集中する。そこに暴力の入り込む余地はない。
感情を制御できず、選手に暴言を吐き、手を出す。コーチの
力不足を露呈しているようなものだ。「情熱」の継続は
根気のいる作業でもある。

かってのプロ野球選手で、巨人の荒川博、王貞治両氏の
師弟関係は有名だ。打者に転向して力を発揮できない王選手に、
荒川コーチは「一本足打法」を挑戦させる。ひたすらバットを振る。
思いを共有することで困難を乗り越えた。

体操男子のアテネ五輪団体総合金メダリスト、塚原直也選手は
旧ソ連の元エース、故ニコライ・アンドリアノフ氏に8年間、教わった。
「知恵のあるコーチ」に出会ったことが幸運だったと話した。
「知恵」とは多彩な指導の引き出しを持つことだと思う。

 

マスクが手放せない

毎年春になると、遠く中国からやって来るのが「黄砂」だ。
関東地区でも4月下旬から5月上旬にかけての数日は、
黄砂現象が見られ、洗濯物や車を汚すなどの被害も出る。
ところが今年は、その季節を待たずに、厄介なものが
中国から飛んできている。大気汚染物質が、風に乗って
日本にまで飛んできているのだ。

問題は、肺がんやぜんそくを引き起こす可能性があると
される微小粒子状物質「PM2,5」が含まれていること。
福岡市では今年に入り、環境基準値を上回PM2,5の数値を
3日間観測されたそうだ。環境省では日本に飛来するまでに
濃度は薄まっており、「健康への影響が出るレベルではない」
とするものの、やはり不安は募る。空中を漂う汚染物質は、
航空機や船のように追い払うことができない。

元を断つのが一番だが、経済発展を最優先させる中国にとって、
環境悪化を食い止める方針に急激に舵を取るのは難しいだろう。
とはいえ、中国の経済発展のツケを回されるのだけは
願い下げたいものだ。粒子は小さくて通常のマスクを通り抜けるため、
効果はないとされる。ただ、インフルエンザの流行、大気汚染物質
の飛来、花粉の季節が続くとなれば、しばらくはマスクが手放せない。

孫への教育資金

昭和を代表する作家の一人に吉川英治作家がいる。
代表作は「宮本武蔵」や「三国志」「新・平家物語」など。
これらを原作とした映画やテレビドラマは数多い。

工場勤めだった若い頃、彼の元に母親から小包が届いたそうだ。
中を開けてみると欲しかった本と一緒に、刻みタバコがあった。
愛煙家だった息子のため、夜な夜な針仕事を続けては、
お金をため、やっとの思いで買いそろえたに違いない。

その優しい心に触れた息子は、胸が熱くなり泣いた。
以来、彼は小包を結わえてあった母の赤い腰ひもを
肌身離さず身に着けた。苦労しながらも独学を続けた
吉川英治作家は、やがて文化勲章の受章作家となった。
扇谷正造著「君よ朝のこない夜はない」(講談社)にあった逸話だ。

その昔は、親たちが汗水を流して働き、子供たちの教育資金を
工面した。青雲の志を抱き、地方から都会の大学などに進むと、
なおさら学資もかさんだ。大作家が晩年になっても語った
赤い腰ひもではないが、故郷からの仕送りは何物にも代え難いものだった。

政府・与党は新たな税制改正大綱案を固めたようだ。この中では
祖父母が孫に教育資金を一括して贈与する場合、1人当たり
1500万まで非課税とする方針。高齢者の資産を若い世代に
移すことで、消費を促す狙いらしい。

「シックスポケット」なる言葉がある。今の子供には両親のほか、
父方母方の祖父母を加えた六つの経済的な財布を指す。
税改正で今後は四つの財布からも教育支援が増えるとすれば、
そのありがたみをどう子に伝えたらいいのか、それも親の務めとなる。

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