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2014年2月 Archive

ほのぼのとした感じ

江戸の街は、徳川家康が幕府を開いてから急速に発展した。
天下太平の世が続いた江戸時代の中期には人口が100万人を超え、
当時のパリやロンドンをもしのぐ世界屈指の大都市へと成長した。

商人や職人の多くが住んでいたのは下町。建物が軒を連ね、
狭い場所に庶民がひしめき合うようにして暮らしていた。ともすれば、
いざこざが起こりがちだが、いつしか人間関係をうまく保つ暗黙の
ルールが生まれた。

狭い道路で前から人が来たら、互いに右肩を引き、体を斜めにして
擦れ違う。雨降りなら、双方が傘を外側に傾ける。相手に滴を
かけないための配慮。傘を壊す心配もない。前者は「肩引き」、
後者は「傘かしげ」と呼ばれる。

これら「江戸しぐさ」は、知らない者同士がうまくやっていくための
処世術。法律などで明文化された決まりではなく、店主が従業員に、
親が子へ語って教えた。(越川禮子著『商人道「江戸しぐさ」の
知恵袋』講談社)

先日の大雪の影響で、1人がようやく歩けるほどの狭い歩道に
雪が積もった。足元の悪さに気をとられながら歩いていると、
対向してきた年配の女性が立ち止まって道を空けてくれた。
軽く会釈すると、笑顔で会釈が返ってきた。擦れ違いざまの
一瞬の出来事だった。無言のやりとりながら、ほのぼのとした
余韻が心地よかった。

チームワーク

ソチ冬季五輪のスキー・ジャンプ団体で日本が
銅メダルを獲得した朝はうれしさがこみ上げ、チーム
一人ひとりの頑張りに涙ぐむ葛西紀明選手の姿にじーんときた。

メンバーは20歳から41歳までいて、親子ほど年の差がある。
それぞれの各国の強豪を相手にしながら、けがや病気とも
闘っていた。銅はベテランが引っ張り、若手がきっちり
役割を果たした結果だ。

日本が団体で金メダルを取った1998年の長野五輪の影で、
直前に足を痛めメンバーに入れず悔しい思いをした葛西選手。
7度目となる今大会は、競技後に見せたVサインと晴れやかな
笑顔が印象的だった。

自分より若い世代の中で喜びを隠さない41歳に見入った。
悔しさをバネに変え、努力を続ければ望みはかなう。
その手本を見せてくれたように思う。

個人の銀、団体で銅を取ってなお「金メダルを取って、本当の
レジェンドと呼ばれるように頑張りたい」と次の五輪への意欲を
見せるあたりさすがだ。何事もやり続けるのも区切りをつける
のも自分次第。絶えず目標を揚げ高みを目指す姿に力をもらった。

自然の力を感じる

日本の近代建築研究の第一人者で、先日68歳で逝去した
鈴木博之さんが、ある企業から、「数百年残り続けた構築物の
調査を」との依頼を受けたのは、東日本大震災の三十年前の
ことだったという。世界各地の建築遺産などを調べ、報告書を
書かれた。その時、数世紀の時に耐えうる建造物のありように
気づいたといわれたそうだ。

一つは、大理石など持ち去られやすい高価な材料や、維持に
手間が掛かる最先端の技術で造るのは、だめだということ。
泥や普通の石などありふれた材料で大きく造るのが肝要で、
ピラミッドや古墳がその例といわれる。

もう一つは、宗教に代表されるように、人々が世代を超え、
それを守る熱情を持ち続けるシステムがあること。
その好例の一つが伊勢神宮だそうだ。

大震災の教訓を鈴木さんは<自然への畏敬(いけい)の念、
そこに込められた鎮魂の思いなくしては、今後数百年にわたる
町の再生はあり得ないのではないか>と論じられようだ。
いくら私たちの生活が技術発展の上に立とうとも、自然の力を
しかと感じて生きねばならないのだと。

鈴木さんの三十年余前の報告書を手にした企業はどう
受け止めたろうか。この企業、実は原発から出る放射性廃棄物に
関連する会社で、その長期貯蔵のヒントをも求めていたそうだ。
まさか核の力を信奉する「宗教的システム」が必要と考えた
訳ではなかろう。

伝統と景観

ドイツの建築家ブルーノ・タウトが亡くなって今年で76年。
1933年に来日したタウトは桂離宮を世界に紹介するなど、
各地を旅しながら日本の美を再発見したことで知られる。
白川郷には35年5月に訪れ、合掌造り家屋を「建築学上
合理的であり、かつ論理的である」と絶賛したことで、
広く世界に注目されるきっかけとなった。

日本の文化的価値については、しばしば海外から
教えられることも多い。身近すぎて気が付かないのか、
それとも自信がないのか。浮世絵の芸術性の高さを
認めたのも、海外の方が先だった。

昨年は、「富士山」がユネスコの世界文化遺産に、
「和食」が無形文化遺産に登録された。ともに日本を
象徴する文化で、日本人の心が世界に認められたと
胸を張ってもいいと思う。

ただし、もろ手を挙げて喜んでばかりはいられない。
例えば、日本の食文化は、自然や四季の移ろいを表現して
楽しむとともに、年中行事とも密接に関わって育まれてきた。
洋食が普及した今、その食習慣が失われつつあるのでは
ないだろうか。

遺産登録を契機に今後、外国人観光客の増加や
農水産物の輸出拡大も期待される。しかし、大切なのは
伝統や景観を守り、次世代に引き継いでいく努力を
怠らないことではないだろうか。

日本女性科学者の大偉業

小保方晴子さんは、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター
(神戸市)に勤める研究ユニットリーダーだが、STAP細胞という
新たな万能細胞の作製に成功した立役者だ。研究者といえば
白衣というイメージがあるのに、ご本人は祖母から貰った割烹着を
愛用しているといわれるのには笑ってしまった。この個性が
再生医療に新たな可能性を切り開いたのかもしれない。

この細胞がどのような革命をもたすのか、実用化にはまだ
超えなければならないハードルが色々待ち受けているのだろうが、
山中伸弥京大教授の開発もたiPS細胞に続いて画期的な発見が
日本から生まれたことは大いに誇るべきだ。

この細胞は作製が容易でがん化のリスクも低く、実用化されれば
神経や筋肉の細胞に分化する能力があると確認された。
マウスを使った実験ではあらゆる細胞に変わることができる
可能性を示したという。これは再生医療にとって偉大な一歩である。

この分野はいまや日本の独壇場と化した趣があり、今後裾野が
広がればさらに新たな発見、発明が促されることになろう。
オール日本が個人の平和にもつながるこうした研究に貢献していけば、
このところすっかり自信を失った日本人はようやく覚醒するだろう。

 

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