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故郷

先週、久しぶりに実家の墓参りをした。
父母の墓前で無沙汰(ぶさた)をわびながら、ふと横を見ると、
知人の家の墓が消えている。
遠方に住む家族が自宅近くの墓地に移したらしい。
 
近ごろは骨や墓を移す「改葬」や寺に永代供養を依頼する人が
増えているらしい。墓参りの代行サービスもあるそうだ。
以前は帰省の家族でにぎわった実家周辺がひっそりしていた。

途中、大分県臼杵(うすき)市にある「臼杵石仏」を訪ねてみた。
天然の岸壁に彫刻した磨崖仏(まがいぶつ)としては1995年、
全国初の国宝に指定された名所だ。その数59体。
巨大な石仏が並ぶ荘厳さに、ただただ圧倒された。

その中の一つ、高さ3メートル近い大日如来坐像の近くにある
立て看板を見てハッとした。
縁結びや合格祈願などと並んで、「リストラ除(よ)け」の文字だ。
ガイドの説明はこうだった。
石仏の頭部が長い間地上に落ちていたのを、1993年に修復して
「首がつながった」。それにあやかったとのことだ。
 
ちょうどバブル経済がはじけた後のことだ。
なるほど、と思いながらも複雑な思いに駆けられる。
一昨年の12月初めに大企業が人員削減を発表した。
懸命に石仏に手を合わせた方々の姿が目に浮かぶ。

臼杵石仏は平安時代後期から鎌倉時代にかけて彫像されたという。
何百年も世の動きを見つめてきた石仏の目には、
現代人の所業がどんなふうに映っているのだろうか。

(M.N)

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