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盤上の海

棋士の羽生善治さんは、将棋盤の前に座って考え始めると、
<ほんとうになにか海の中に潜っていくような感じになる>
といわれる。潜っていく感じが深ければ深いほど、
時間があっという間に流れ、意識がなくなっていくような
感覚になるそうだ。それは、将棋というジャンルを超え、
創造の世界に生きる究極の才能が味わう没我の境地なのだろうか。

「盤上の海」は、縦横9マスと狭くても、底知れない深さを持つ。
あの故大山泰晴15世名人に並ぶ通算80期のタイトル獲得
という偉業は、深海に幾度ともなく身を沈めて、つかみ取ったものだ。

当時史上最年少の19歳3ヶ月で初タイトルを獲得して以来、
誰もなしえなかった全7冠を制覇するなど常に棋界の先頭にいられる。
眼鏡の好青年の印象が強い天才棋士も、はや40歳。髪には白い
ものもさす。

「若い人たちが台頭しており、一局勝つことが大変だと
しみじみ実感することが多い」。新世代を代表する24歳の
広瀬章人王位を下した後の記者会見で語った言葉は本音だろう。

『海の深さの中に入っていく』。「ほんとうに面白い言葉だなあ」
と思った。これからも、誰も見たことも、踏み入ったことも、
潜ったこともない世界を、棋譜と誠実な言葉で表現してくれるはずだ。

(M.N)

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