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扉を支える

四月は出会いの季節でもある。
職場や学校に、初々しい笑顔が並ぶ。
新しい人を迎える式典で、かって聞いた言葉を思い出した。

混雑した、例えば駅の通路や建物の入り口に、扉がある。
行き来が多いから、扉は順繰りで誰かが開けているはずだ。
このとき「進んで扉を支える人があって欲しい」。
そんな、わかりやすい内容だった。

考えてみれば、あれは一種の共同作業だ。
前の人が扉を押さえている。自分も次の何秒か
同じ役割を担う。面倒だからとすり抜ければ
扉は勢いをつけて閉まってゆく。
後の人に負担がかかる。

あの場で、立ち居ふるまいの美しさに触れることがある。
先を歩く人が、手を離す前に
「迷惑ではないですか」とばかりに振り返る。
乳母車を押す人やお年寄りはいないかと
さりげなく確かめる。そんな姿を見るとほっとする。

扉の話は応用範囲が広い。
人の世には、気づきにくい共同作業が多くある。
仲間と仕事を進めるため、自分が支えるべき扉を見つけられるか
すり抜けてしまうか。背後にいて見えない人の立場に
配慮できているか。

ささやかなことだが、世が他者への配慮に満ちていけば、
空気は明るくなるだろう。人と人のつながりを思ううちに
大きな過去や未来を考える機会もできよう。
新たに歩き出す人々に、手始めとして、
雑踏の中の扉を意識することを、お勧めしたい。

子供が、誕生したばかりの孫を乳母車に乗せて
買い物に行く姿を見ながら
私もあらためて扉を意識しなければいけない。

(M.N)

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