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苦役列車から

今年1月、芥川賞に決まった西村賢太さんの「苦役列車」が、
純文学作品としては異例のベストセラーになっている。

中学卒業後、日雇い労働をしながら自身の体験を基にした
私小説を書いてきた43歳の西村さん。「苦役列車」もまた、
日雇い仕事で食いつなぐ19歳の貫多を主人公にした私小説である。

恋人も友人もなく、家賃もろくに払えない。そんな貫多の
駄目さかげんをこれでもかこれでもかと切なく、ユーモラスに
描いている。不況、就職難、貧困、格差社会・・・。
若者を取り巻く息苦しい時代状況が、「苦役列車」を
ベストセラーに押し上げたのだろう。

「文芸春秋」3月号で、西村さんはこう語っている。
「現実問題として、僕は女性と結婚して幸せに
なったりとかできませんから。その資格もありませんし。
残された道は、逃げずに私小説を書いていくことしかない」

一方、混迷を深める政治の世界。新年度予算案は衆院を
通過したものの、予算関連法案成立のめどは立っていない。
民主党では衆院16人が予算案採決で造反、1人が離党届を提出した。
まさに現政権は、"苦役列車”に乗っているようなものである。

違うのは、西村さんには作家としての覚悟があることだ。
駄目男を描きながら、行間におのずとにじみ出る潔さが、
読者の共感を呼ぶのだろう。

(M.N)

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